Interview
【インタビュー】叶 1st full album『藍』特集|叶 × 和賀裕希 × 佐伯youthK × kz 座談会

バーチャルライバーグループ・にじさんじ所属の叶が、2月25日(水)に1st full album『藍』をリリース。CD二枚組の今作は、DISCごとに楽曲のコンセプトが異なる。
叶を客観的に捉えた表向きの姿を表現した『あ盤』
叶自身を一人称視点で捉えた『い盤』
今回PYLON PORTでは、叶、アーティストデビューからサウンドプロデューサーを務める和賀裕希、『あ盤』収録楽曲「アイ」の作詞・作曲・編曲を手掛けた佐伯youthK、『い盤』収録楽曲「Play on Ever」の作詞・作曲・編曲を手掛けたkzの4名での座談会を実施。
フルアルバムの制作背景やレコーディングの裏話、各盤収録楽曲や『い盤』収録の「log」足音の秘話まで…『藍』をじっくり味わうロングインタビューをお届けする。
Interview & Text by ナカニシキュウ
「TPSとFPSじゃない?」みたいな
和賀裕希 今回のアルバム制作にあたって、最初に叶くんとスタッフを交えてああだこうだとブレストをしたよね。どんな方向性にしようかと。
叶 けっこうやりましたよね。
和賀 その会話の中で、まあ結果的にベタなテーマではあるんだけど、“三人称視点と一人称視点”という話が出てきて。「TPSとFPSじゃない?」みたいな。
kz やっぱりゲームなんだ(笑)。
和賀 そのアイデアが出てきたあたりで、「2枚組にしたいね」という話になったんです。
三人称視点で叶くん像を描く『あ盤』と、一人称視点で語る『い盤』に分ける、というコンセプトがだんだん固まっていった。
佐伯youthK それが実現できたのもすごいよね。CDを出せなくなってきているこのご時世に。
和賀 たしかに(笑)。
叶 この13曲って、全部1枚のCDに収まりますからね(笑)。
kz 1曲1曲の尺も短いしね。でも、コンセプトとして分ける必要があったってことでしょ?
和賀 そう、これは分けないと伝わらないから。
で、レーベルさんに「いいですか?」と聞いたら「いいですよ」と言ってくれて。
kz パッケージデザインもめちゃめちゃ凝ってるもんなあ。「逆にここまでしないとフィジカルでリリースできないんだ?」とは感じましたね。
和賀 作り方も『あ盤』と『い盤』で全然違うんですよ。
佐伯さんをはじめとする『あ盤』の作家さんにはリファレンス曲を一切出さずに発注して、あえて本人との打ち合わせもなしにして、イメージを固定しないようにしました。その中でもとくに、佐伯さんは唯一“ガチで彼を知らない人”枠で(笑)。
佐伯 え、完全に僕だけ?
叶 そうですね、ほかの方々とは何かしら関わりがありました。
曲を書いていただいたことがあったり、「歌ってみた」でカバーさせていただいたことがあったり。
佐伯 そうなんだ。
和賀 で、kzさんなどにお願いした『い盤』のほうは内面的なテーマ性が強くなるだろうということで、本人も交えて直接ディスカッションをしながら進めていった感じです。しかも、これは偶然なんですけど『あ盤』と『い盤』でマスタリングエンジニアも変えてるんですよ。
佐伯 ええー! そうなの!?
和賀 発端は単にスケジュールの問題だったんですけど(笑)。
吉良さんと柴さん、お二人の作り上げる音の質感がそれぞれ各盤にあってて、それによってコンセプトがより明確になったんで、結果的にすごくよかったなと思っています。
「アイ」=“極上のTPS”
佐伯 今の和賀ちゃんの話にもあったように、僕は本当に叶さんのお名前しか知らない状態でお話をもらったんですよ。だから逆に、その立場を最大限生かそうと思って。
何も知らないからこそ、“極上のTPS”を見せられるのは僕だけなんじゃないかと(笑)。
kz たしかに、みんなある程度知っちゃってるから。
佐伯 そう。いわゆる“当て書き”とは正反対のやり方で、NG事項だけを和賀くんに確認しながら「アイ」を作らせてもらいました。
叶 めっちゃカッコいい曲で、デモをいただいたときは素直にうれしかったです。すごく喜んじゃいました。
佐伯 よかった、受け入れてもらえて(笑)。
叶 (笑)。しかも、佐伯さん自ら歌ってくださった仮歌がめっちゃよくて。
和賀 そうそう、「もうこのままリリースできるじゃん」っていうね(笑)。
叶 ただ同時に「これを自分が歌うとなると……」っていう、期待と不安が入り混じる感じではありました。
佐伯 すみません、難しくしちゃって(笑)。暗号を覚えるみたいな曲というか、ほとんど暗記モノですよね。
叶 なので、めっちゃ聴いて覚えました(笑)。
聴けば聴くほど好きになっていく感覚もありましたし、歌うのは楽しかったですね。
kz 相当聴き込まないと歌いづらいメロディだろうから、完成音源を聴くと「本当にいっぱい聴いたんだろうな」というのが伝わる。
和賀 だからレコーディング当日はめちゃくちゃスムーズで。
佐伯 そうそう。サビとかは「ア、ア、ア、ア、アーイ」って母音でスタッカートなんでけっこうスキルフルなんだけど、最初からいい感じに歌ってくれていて。
和賀 我々が「ここは苦戦するんじゃないか」と懸念していたところを難なく歌うんで驚いてたら、本人は「なんですか?」みたいにケロッとしていて(笑)。
叶 (笑)。
僕はサビのこの部分が一番好きというか、一番練習してきたポイントだったので。レコーディングまでに時間を取ってもらえたからできたことでもありますね。
佐伯 技術的なところを先にクリアしてくれていたから、当日は解釈やニュアンスのすり合わせみたいな作業がほとんどでしたよね。すごくクリエイティブなレコーディングだった。
ちなみに、なんでこの曲を1曲目にしてくれたんですか?
和賀 え? いや、直感で(笑)。
叶 すんなり決まりましたよね。僕の中ではスッと腑に落ちたんで、改めて理由を聞かれると言葉にするのが難しいです(笑)。
kz 僕からしても「当然これが1曲目でしょ」って感じはありますね。これで一発カマしとくか、みたいな。
佐伯 そうなんだ。自分じゃわからないですね、やっぱり。
叶さんのことを一番知らない僕が書いたこの曲が最初で、本当にいいんですか?って感じです(笑)。
ゲームやってるだけの歌だからね
和賀 kzさんに書いていただいた「Play on Ever」も、上がってきたデモを聴いた瞬間に「最後かな」って。
kzさんの曲はどうしても最後になっちゃうんですよね。
kz いつも最後の曲ばっかり担当してるから(笑)。
でもとくにその意識で作ったわけではなくて、よりパーソナルな『い盤』に入るというのは決まっていたから、壮大な世界観というよりは日常感を出したいなと思って作りました。
叶 やっぱり僕からすると、kzさんといえば「Virtual to LIVE」(にじさんじ1周年記念曲)のイメージがどうしてもあって。
にじさんじの国歌みたいなものだから……。
一同 国歌(笑)。
叶 それに近い温かみを感じられたのが、すごくうれしくて。
でも、打ち合わせではゲームの話ばっかりしてた気がします(笑)。
kz ゲームの話しかしてないよね(笑)。
和賀 ちょうどその時期に、「Path of Exile」というゲームに僕らみんなハマっていて。だからタイトル見てほしいんですけど、「Play on Ever」を略すと「Path of Exile」と同じ「PoE」になるんですよ。
佐伯 なるほどー! うわー、やられた! ズルい、僕もそういうのやりたかった!
叶 あははは(笑)。だから、僕はこの曲が一番『い盤』だなと思っていて。
kz たしかにこれ、ゲームやってるだけの歌だからね(笑)。
打ち合わせの中で、叶くんに「なんでハードコア、一度死んだらアイテムも全部ロストするモードですけど、そんなモードでやってるんですか」って聞いて。「それを失ったとしても、自分自身の経験値まで失われるわけではない」と言っていて、「そんな考え方でゲームやってる人いるんだ?」というビックリが俺の中であったんですよ。
叶 失われることの尊さというか、花が散る美しさみたいなのが僕がハードコアを好きな理由なんですけど、その思想が曲の中にマイルドに詰まっていて、感動しました。
佐伯 もしかして、歌詞に出てくる「インセイン」というのはゲーム用語だったりするんですか?
kz たぶん、ゲーマーだったらわりと通じますね。
でも一般的には聴きなじみのない単語だから、パッと聴いたときにちょっとマイルドに響くかなと思って。意味は一番ヤバいけど(笑)。
叶 狂気的な難度、みたいな意味ですね。
佐伯 なるほどねえ。それはキャッチできてなかった(笑)。
衝突するのは好きなので
和賀 その「PoE」のレコーディングはマジですごかった。
途中で曲の解釈を巡って意見が割れて、1時間ぐらい作業がストップしたんだよね。
叶 話し合いが行われて。曲に対する認識の相違があったんですよ。
kz そう。
俺はわりと「理不尽な目に遭ってストレスを抱えているときに、それをどう乗り越えていくか」という、人生観の比喩的なものとしても響くよう歌詞を書いたつもりだったんだけど、叶くんと話していくうちに、彼はストレスをまったく感じずに生きてきたということが判明して(笑)。
和賀 明るめの曲調だけど、「暗いテーマをあえて明るく歌う」のと「明るい歌をそのまま明るく歌う」のは違うじゃないですか。kzさんや僕は前者のイメージだったんだけど、叶くんは後者だったんだよね。
叶 僕が思っているニュアンスと、ディレクションでもらうニュアンスにけっこう乖離があって。
とりあえず言われたとおりにやってみるんですけど、どうしても噛み合わない感じがあったんです。
kz こっちはまさか人生でストレスを感じたことのない人間が存在するなんて思ってもいないから、そりゃあ噛み合わないよねっていう(笑)。
和賀 で、いろいろ話し合った結果「やっぱゲームだよね」つって。
一同 わはははは(笑)。
kz そもそも日常を描こうとしていたわけだし、「ゲームをやったら楽しいよね」という、それだけの歌としても成立するんですよ。日常って、それでよくない?っていう。
叶くん自身が感じたことのないニュアンスを表面上いくら歌に込めたところで、それはリアリティがないし……ということを1時間ぐらい話したら、「やるぞ!」という雰囲気になった(笑)。
叶 そこからはすごくスムーズでしたよね。
kz 早かったよね。その話し合いの過程で、歌詞を変えたりはまったくしてないんだけど。

佐伯 そのエピソードは、叶さんの内面を描く『い盤』ならではって感じがしますね。『あ盤』の人間は蚊帳の外ですもん(笑)。
話を聞いていて、すごくクリエイティブな現場だなって胸が熱くなりました。
叶 僕自身、あんなふうに人とぶつかり合ったことが今までの人生でなかったから、すごくうれしかったです。衝突するのは好きなので。
kz 本来はどの現場でも、あれぐらい意見をぶつけ合いながらいいものにしていくべきなんだよね。
だから叶くんみたいに、ちゃんと話をしてくれる人はめちゃくちゃありがたい。
丸くなっていくのが嫌で
叶 おふたり以外の曲だと、 尾崎雄貴(Galileo Galilei)さんに書いていただいた「コモンピーポー」に僕はけっこう……びっくりして。
kz 俺も「コモンピーポー」の話はしたかったんですよ。なんですかこれは(笑)。
佐伯 『あ盤』ならではって感じですよね。
叶 以前、尾崎さんに書いていただいた「Kids」が優しい雰囲気の曲だったこともあって、今回トゲトゲに尖った曲が来たので驚きました。
でも、それがめっちゃカッコよくて……!
和賀 いや俺もね、このデモが届いたときは「Galileo Galileiらしい最高なの来た!」ってテンション上がったんだけど、叶くんに渡すのは緊張した(笑)。曲自体はめちゃくちゃカッコいいんだけど、あまりにも攻めすぎてないかなって(笑)
佐伯 でも完成音源を聴く限りでは、こういうのもめちゃくちゃ合いますよね。拡声器処理とかすごく似合う。
kz そうなんですよね。ただ好き勝手に作ったわけじゃなくて、完成すると「なるほど」となる説得力がちゃんと生まれるのがすごい。
和賀 尾崎くんには見えていたってことなんでしょうね。こんな挑戦的なことを楽曲提供でやってくれる尾崎くんは最高ですよ。
歌いこなしちゃう叶くんもすごいし。
叶 こういう曲を書いて頂いたおかげで、僕は大義名分を得たというか……。
一同 大義名分(笑)。
叶 やりたい放題やらせてもらえた感覚はありましたね。そのきっかけをくれたことがありがたかったです。
佐伯 この曲に限らず、叶さんはどんな曲でも“叶の曲”にしてしまう力があるなと感じるんですけど、届いたデモに対して「これは歌えないな」と思うようなことはなかったんですか?
kz ああ、たしかにそれは気になる。たとえば「ここをちょっと変えてほしい」みたいな、リテイクを出した曲はあったの?
叶 栗山夕璃さんに書いていただいた「嫌いだ」で、いくつか歌詞を強めの表現に変えてもらったりはしました。
最初にいただいたものが、僕が今まで好きで聴いてきた栗山さんの曲よりもちょっとマイルドに感じたんですよ。気を遣ってそうしてくださったんだと思うんですけど。
和賀 栗山くん、いいやつだからね(笑)。
叶 僕、最近よく思うんですけど、丸くなっていくのがめちゃくちゃ嫌で。
いろんなことを気にしているうちに、いろんなものがどんどん丸くなっていくじゃないですか。
kz 耳が痛えなあ(笑)。
佐伯 うん、痛い痛い(笑)。
叶 あははは(笑)。
なので自分のアルバムぐらいは丸くならないようにしたいと思って、尖らせられる部分はできるだけ尖らせたかったんです。
足音まで楽しんでください
叶 今回の『藍』というアルバムは、今までの中で一番僕自身を示している作品だなと思っています。
たぶん今までで一番自分の意見を言ったし、一番それを反映してもらった制作だったので、ありがたかったなって。
kz 僕はかれこれ8年ぐらい外から叶くんを見てきているわけですけど、一番「ぽいな」と感じるアルバムですね。リスナーもスッと入れるんじゃないかな。
作家陣のバランス的にも、叶くん周辺の文化圏をよく理解している水槽とか烏屋茶房くんとかがいる一方で、佐伯さんのような初参加の人もいて。これがちょうど一番叶くんっぽくなるバランスだったのかな、という気がしますね。
佐伯 関わったクリエイター全員のエゴがちゃんと見えるのがいいですよね。みんなが作りたいものを作っている、90年代ぐらいのアルバムの匂いがするというか。
そのすべてのエゴを飲み込んでしまう叶という巨大なエゴもいて(笑)、すごくリアルなアルバムですよね。
和賀 僕としても、めちゃくちゃ自信を持って世に出せるアルバムになりました。叶くんの詰まったアルバムを、ぜひ多くの人に浴びてもらいたい気持ちですね。
……で、最後に1個小ネタなんですけど、『い盤』4曲目に入っている10秒のトラック「log」で聴ける足音は、ガチの叶くんの足音なんですよ。それだけご承知おきいただけると。
kz ちゃんと録ってるからね。
和賀 そう、マイク立ててね。叶くんに「足音の鳴る靴履いてきて」って言って。
佐伯 いちおう“本人演奏”なんだ(笑)。
叶 ある意味そうですね(笑)。
佐伯 すげえいい音だった。ちゃんとスタジオで録ったんだ?
和賀 そう。木の床だったんで、いい音が録れました。なかなか貴重な音源となっております。
kz それを踏まえて聴いてください、と。
和賀 はい。足音まで楽しんでください!
■商品情報
叶 1st full album 「藍」
INDEX
[Disc1(あ盤)]
1:アイ
作詞・作曲・編曲:佐伯youthK
2:バッドニュース
作詞・作曲・編曲:水槽
3:ANEMONE (rework)
作詞:Cocoro. (Dream Monster)
作曲・編曲:和賀裕希
4:Voyage
作詞・作曲・編曲:春野
5:あわい
作詞・作曲・編曲:生活は忘れて
6:コモンピーポー
作詞・作曲 : 尾崎雄貴
編曲 : Galileo Galilei
7:ミッドナイト・アジテーター
作詞・作曲・編曲:烏屋茶房
8:ブロードキャストパレード (Re-recording)
作詞:Cocoro.(Dream Monster)
作曲・編曲:佐藤厚仁
9:アイ(Instrumental)
10:バッドニュース(Instrumental)
11:ANEMONE (rework)(Instrumental)
12:Voyage(Instrumental)
13:あわい(Instrumental)
14:コモンピーポー(Instrumental)
15:ミッドナイト・アジテーター(Instrumental)
16:ブロードキャストパレード (Re-recording)(Instrumental)
[Disc2(い盤)]
1:リフレイン
作詞:やぎぬまかな
作曲・編曲:和賀裕希
2:嫌いだ
作詞・作曲・編曲:栗山夕璃
3:アイノウ
作詞・作曲・編曲:すこっぷ
4:log※インタールード
5:Play on Ever
作詞・作曲・編曲:kz
6:リフレイン(Instrumental)
7:嫌いだ(Instrumental)
8:アイノウ(Instrumental)
9:Play on Ever(Instrumental)
初回生産分限定封入特典
叶 2nd LIVE最速先行シリアルチラシ 封入
叶 1対1オンラインおしゃべり会 応募シリアルチラシ 封入
発売元:株式会社バンダイナムコミュージックライブ
販売元:株式会社バンダイナムコフィルムワークス
■ライブ情報
叶 2nd LIVE 孤独 -solitude-
・開催日時
2026年7月31日(金) OPEN 17:30/START 18:30
・会場
東京国際フォーラム ホールA
・ゲスト
樋口楓
剣持刀也
椎名唯華
三枝明那
加賀美ハヤト
星川サラ
小柳ロウ
詳細はこちら
https://www.nijisanji.jp/events/kanae_2ndlive/
■叶 Profile
■HP・SNS
・公式プロフィール:https://www.nijisanji.jp/members/kanae
・叶アーティスト公式:https://kanae.lantis.jp/
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