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【コラム】音感れもねゐど 奏音の音楽観|第2回:「Holy Sweet Home」楽曲解説<アニメ尺以降、フル尺編>
(TVアニメ『捨てられ聖女の異世界ごはん旅 隠れスキルでキャンピングカーを召喚しました』エンディング主題歌)

一聴するとトリッキーでありながら、聴き込むほどに耳へと馴染み心地よく溶けていく音楽性が特徴のユニット、音感れもねゐど(オンカンレモネイド)
 
2026年7月に、バンダイナムコミュージックライブ内音楽レーベル・Lantisからのメジャーデビュー曲として、TVアニメ『捨てられ聖女の異世界ごはん旅 隠れスキルでキャンピングカーを召喚しました』エンディング主題歌「Holy Sweet Home」をリリースしました。
 
PYLON PORTでは、音感れもねゐどの多面的な楽曲の世界観がどのように生み出されているのかを紐解くべく、音感れもねゐどの作曲を手掛ける奏音さんご本人のコラム連載を実施。
第1弾では、「Holy Sweet Home」のアニメ尺を中心に、楽曲に込められたさまざまな仕掛けを作曲者自ら解説いただきました。
 
第2弾となる今回は、いよいよアニメ尺以降の2番からフル尺までを徹底解説!
アニメ尺では聴くことのできなかった展開や、フル尺だからこそ盛り込まれたメロディー、コード、構成上の工夫など、「Holy Sweet Home」に隠されたさらなるこだわりを、奏音さんご本人に紐解いていただきます。
 
ぜひ実際に楽曲を聴きながら、アニメ尺の先に広がる「Holy Sweet Home」の音楽世界をお楽しみください。

第1回:「Holy Sweet Home」楽曲解説<アニメサイズ編>はこちら

音感れもねゐど 奏音プロフィール

奏音(かなと)

桐朋学園大学・パーカッション専攻。
あらゆるジャンルを自在に融合させる卓越したセンスを兼ね備え、バンドの心臓部(音楽的要)を担う。としてその存在感を放つ。人気音楽ゲーム『DEEMO II』への楽曲収録をはじめ、独特のコード感が生み出す唯一無二の世界観は多方面から注目。
 
・音感れもねゐど Lit.link:https://lit.link/onkan_lemonade
・音感れもねゐど X:https://x.com/onkan_lemonade
 
・奏音 X:https://x.com/knt_perc_

第2回:「Holy Sweet Home」楽曲解説(アニメ尺以降、フル尺サイズ編)

大まかに意識したところ

ここからは秒数による制限はなくなるので、表現の幅が広がります。

・アニメソングとして聴きやすいようにキャッチーさを重んじたこともあり、今のところ音感れもねゐどにしては穏やかな楽曲構成です。
→2番以降は自分がこの曲で表現してみたかったことをさらに取り入れるため、1番の繰り返しとせずに、Aメロから崩した構成になっています。

・私はコード進行を大事にしているため、どこか鮮やかで美しい、音楽的な転調をしたいと思いました。
⇒特に2番間奏(2Inter)のコード進行を凝りました。細かい転調が多くあります。

・"ラスサビ転調"はしたいが、無理やりキーを+1する露骨な上げ方ではなく、きれいな転調をしたいと思いました。
⇒2Inter→ラスサビへの展開を工夫

2番Aメロ(2A):1分44秒~1分59秒

4小節間1番Aメロ(1A)と同じテーマを回帰させた後、早速1番を崩し始めました。
(1分52秒~『最高の宝物は 日々の中にあるの』)

一見複雑めなコードですが意外とそんなことはなく、4度上に登る動きをなぞりながら、Ⅰに解決していきます。
※ソ♭→(4度上)→ド♭、
ド♭→(4度上)→ファ、
ファ→(4度上)→シ♭、
シ♭→(4度上)→ミ♭、
ミ♭→(4度上)→ラ♭
ラ♭→(4度上)→レ♭ ここでD♭メジャーの調のⅠに到達。

2番Bメロ(2B):1分59秒~2分16秒

1番Bメロ(1B)とは対比的にスタッカートにはせず、穏やかにBメロを開始しているのも違うポイントです。
(1B:『震える気持ちすら ゼロにしていく』/2B:『揺れる木陰に舞う 光に透ける』の部分)
 
そして、1Bは1オクターブ+5度を駆け上がっていく(前回記事参照)のに対し、2Bはなんと下降してします。
1番よりも盛り下がってしまうのか、と一見感じるかもしれませんが、これは敢えてやってます。

1番(1B:『「ここにいていい」と思える そんな奇跡 二度とはない』の部分)
→尺の都合もあり、早めにサビに持っていく必要がある。(前回の60秒以内にサビに入る話に繋がります。)
 
2番(2B:『その目はルビー 空はターコイズ この紅茶さえ ガーネットみたい』の部分)
頂点の盛り上がりは1番よりも高く設定する。ただ、楽曲全体の構成を俯瞰したときに、その「頂点」をより際立たせるため、敢えてすぐには盛り上げず、一旦下降し焦らしました

▼本人演奏による解説動画

1回目→1B
2回目→2B前半
1Bより焦らしているのが伝わりますでしょうか。

G♭m6からの2番Bメロ(2B)後半:2分16秒~2分44秒)

2B後半(2分16秒 『ここに在る今を この瞬間を』~)

1B, 2B前半と同じモチーフから始めているものの、より不安定で暗いコードを選択しています(ピンクの四角がモチーフ)。
先述の通り、2B前半は穏やかに開始している狙いがあったため、その対比を狙っています。
 
コードだけではなくDrのリズムに注目すると、2B前半(『ここに在る今を この瞬間を 大切に守りたいんだ』)はハーフタイム(わかりやすく言うとテンポが半分になったような)ゆったり感に対して、後半(『宇宙にただ一つのコレクション 鍵かけた 宝箱』)は8分刻みになっており、焦燥感を演出している。
 
ここから2Bの終了まで8小節かけて盛り上げていくのですが、暗い方向に向かっていく進行になっています(オレンジ矢印以降)。
メジャー系の和音は少なく、マイナーが多いです
B♭マイナーに向かっていくようなコード進行なのですが、実際の着地点はメジャーであるG♭M7に落ち着くんですよね(赤丸)。


直前の和音がF7、つまりB♭マイナーのⅤ7で、Ⅴ7というのはⅠに向かっていく役割があります。この瞬間まではマイナー調に向かっていくフラグが最後まで立っているんです。
つまりは、次はB♭m(B♭マイナーのⅠ)に向かうだろうな…と見せかけているのですが、しかし、平行調(レラティブ)移調のアプローチをして、メジャーに(G♭M7)転換して、2Bを終えています。

マイナーに持ってくと思わせて、メジャーに解決
→マイナーの部分=溜め/メジャーに解決=解放感を狙いました。
 
2Bが終わって2番間奏(2Inter)に向かう瞬間(2分44秒あたり)。
ここが2番の最もテンションのピークに持っていきたかった場所になります。
 
前回解説した1番では、
1B→D♭メジャーの中に短調(B♭マイナー)の響きをつけるために並行調転調を用いました。
 
(▼1番Bメロ解説の該当箇所)
シ♭の時のコードはB♭マイナー、つまり一瞬平行調(ポップスでいうレラティブ 調号が同じ調のことを指します。この曲のもともとの調であるD♭メジャー、一瞬転調したB♭マイナーは調号が同じ、♭5つの調です)、一瞬短調に移調する響きを大事にしたかったため、B♭マイナーのⅤ-Ⅰの和音をおきました。

今回解説している2番では、
2BはB♭マイナーから長調(D♭メジャー)の響きにするために平行調転調を用いた、同じようで逆方向の転調をしています。
 
▼本人演奏による解説動画

1回目→2B前半(1分59秒~)の進行 ベースラインも順次進行なので穏やか
2回目→2B後半(2分16秒~)から2B終了(2C)までの進行

ポイントは2つ。
①1番と繰り返しにはせず、かなり崩していること
②マイナー系のコードを多用し短調に持ってくような進行であること
③しかし最後は長調に落ち着き、開放感を狙っていること

2番間奏(2Inter):2分44秒~3分04秒

2番Cメロ(2C)が終わってから落ちサビへとつなぐ重要な間奏部分。

2Interは4つの部分に分けることができます。
 
●2Interの直前 青(2Cの最後)(2分39秒~2分44秒『魔法の合言葉を 預けておくから』)
…ベースであるD♭メジャーのⅤ(に近い)和音で解決しようとしている。
 
●オレンジ:2Inter〈a〉 2分44秒~2分50秒
…Ⅴ(5度)的なアプローチをしているが、ここで半音上に移調(Dメジャー)。
ベースラインがA♭→A♮が半音上行のため不自然感を軽減し、かつ色彩も変える狙い
Ⅴ的なアプローチ、すなわちA7(9,11,13)という表記でも良いのかもしれない。
ここらへんはコードというより、ドレミの響きで音を選択しているので、自分でももはやコードの表記方法の最適解がわかりません(笑)。
4小節目で、同じコードの形のまま全音上を鳴らし、次の転調へ持っていく。
 
●赤、ピンク:2Inter〈b,b’〉 2分53秒~3分00秒
…メロディーはほぼ同じリフレインですが、半音調が異なる。
赤〈b〉→Eメジャー
ピンク〈b’〉→E♭メジャー(-1)
 
この半音の移調をした狙いは、♯♭の転換にあります
 
ところで少し脱線してしまいますが、音感を持っている人の中には、24調によって特有の色や情景、場面が浮かぶ方も割といるみたいですよ。
この調は○色、というのが決まっているらしいです。
残念ながら、私は音感こそあるもののそこまでの感性は持っていません。しかし少なくとも、#系,♭系の調とでは、大きく情景が異なると感じます。
なので、カラオケなどでキーを変えて歌うときも、私は♭系の調号の曲なら♭を維持できるようなキーチェンジをすることが多いです。#系に変えてしまうと、違和感で仕方がなくなってしまいます。
 
これを逆手に取り、2Interの中で一瞬異なる景色を挟みたいと思い、#♭を転換した転調を挟みました。

転調の仕方の候補として、
赤〈b〉→Eメジャー(調号:#4つ)から数えて属調(B:#5つ)と下属調(A:#3つ)は共に#系であり、同主調や平行調は短調になってしまいます。

※属調…ある基準となる調の「5番目の音」を主音とした調。Eメジャー(ミが主音)の属調はBメジャー(シが主音)。
※下属調…ある基準となる調の「4番目の音」を主音とした調。Eメジャーの下属調はAメジャー(ラが主音)。
※同主調…同じ主音をもつ調。Eメジャーの同主調はEマイナー。
※平行調…同じ調号(#や♭の数)を持つ、短調と長調の関係。Eメジャーの平行調はC#マイナー(ド#が主音)。

この前に(先述した2Bなど)暗い箇所は終了し、ここからは多幸感を演出したかったので、短調にしたいわけでもありませんでした。
また、異なる景色を挟みたいと思いつつも、奇をてらった転調をするつもりはなく、きれいで鮮やかな転調を心掛けたかったので、遠隔調で無理やりなものは避け、半音での転調を選択しました。
 
そして緑〈c〉(3分00秒~3分04秒)でさらに半音下がり、Dメジャーに戻り、#調に戻り、そのまま落ちサビに突入します。
紆余曲折ありながらもいつのまにか1サビよりキーが+1になっており、ラスサビ転調につながっています。

これは大きいこだわりの一つです。
 
私はラスサビ転調がかなり好きです。
わかりやすく盛り上がることが出来るし、音楽理論に造形が無い方からでも、ラスサビ転調はテンションが上がる、とよく言われます。
この曲もラスサビ転調しているのですが、かなり工夫を凝らしました。
 
ふつうは直前までは原キーで、ラスサビに入る瞬間に+1する、というのがもっともよくあるパターンだと思います。
こういう転調の仕方は、とても聴いていてわかりやすいです。
ただし、言い方を変えると少し安直ではあります。
これは全く貶しているわけではありません。
例えばアイドルソングなどは、むしろわかりやすく転調した方が、最近よく聞く言葉だと「ドーパミン」が溢れやすいですね。
初めて聴いたアイドルの曲に「ラスサビ転調しそう、するかも....!!きたー!!」という感想を抱いた経験があります。
Holy Sweet Homeに関しては、沸くとか、ドーパミンを重心に置いた曲調ではないと思うので、それよりも美しい転調を考えてみよう、ということに焦点をおきました。

落ちサビ→ラスサビ(3C):3分03秒~

・落ちサビ(3分04秒~3分20秒『こわばる心すら ゼロになっていく 燃え盛るような眼差し 「あなたじゃなきゃ」と思える こんな奇跡 二度とはない』)
・ラスサビ(3C)(3分20秒~『あなたが生きてくれていて 星が瞬いているなら』~ラストまで)

ただキーを+1してテンションを落としただけではなく、例えば4小節目(3分10秒『燃え盛るような眼差し』)のD7/Cで突然大きい音が鳴りラスサビに持っていくなどの工夫があります。
全体的に聴いてみるとやはりラスサビ転調自体は効果的で、これは先述した#♭の話にも影響しています。
 
1,2サビ→D♭メジャー(調号:♭5つ)
落ち,ラスサビ→Dメジャー(調号:#2つ)
 
さきほど、調ごとに情景がはっきり思い浮かぶ人がいるが私はそこまで持ち合わせていない、という話をしました。
しかし、ざっくりですがグラデーションで抱いているイメージがあります

これはいわゆる"五度圏"の表に無理やりあてはめたものなのでかなりざっくりしているのですが、♭はかわいい、#は明るい系のイメージがあり、調号が深くなってくると温かみが出てくる、というのが個人的な持論。
なので、属調、下属調の転調は、系統は大きく変わらないイメージがあります。

これは根拠に欠けるあくまでも私の意見にはなってしまいますが....
少なくともこの曲(D♭,♭5)がアニメ作品や歌詞、曲名も含めて鑑みて、この4つの中だったら"温かみ"に入るのではなかろうか。
 
この曲はD♭(1,2番サビ)→D(落ちサビ,ラスサビ)に転調しているので、自分的には温かみのある調→明るさに寄った調といったイメージです。
 
もちろんこれは個人の持論でしかないのですが、普段曲を聴く側の時も結構感じます。
 
作曲するときによく心がける、ラスサビで意識していることがもう一つあります
それは、1(2)サビの丸パクリではなく、何かしらの変化を加えること
但し、ラスサビ転調するのみではカウントしていません。
 
・メロディーラインを少しだけ変更する(変えすぎると再起感が薄れるので気を付ける)
・フェイクを加える
・キメのリズムを増やす
・ハモリを足す
・リハモ(コード進行を変更)する
 
のうち、大抵どれかしらは行っています。
 
この曲は、
・(ただでさえ転調しているため)ボーカルの音域をこれ以上高くすることはできない(とはラスサビで音を低くするメロディー変更はなかなか難しいのではないか)
・あくまでもメロディーのキャッチーさを残す
 
ということから、メロディーではなくリハモ(コードを変更)しています。
あからさまに変えすぎるといやらしすぎてしまうので、Ⅱ-Ⅴの時に裏コード的のような響きを使うくらいに留めてはいる。

上段)1サビ
下段)ラスサビ
赤い〇が裏コード的な響き(BマイナーのⅡ-Ⅴ→ F#7ではなくルートを増4度変更)

▼本人演奏による解説動画

そもそもキーが変わっていますが、赤い〇の箇所に注目していただければと思います。
 

というわけで、2回に分けてHoly Sweet Homeの楽曲解説をしてみました!
かなり手の内を明かしてしまいました(笑)
 
執筆しながら、「そういえば作曲時こんなこと意識していたな...」と見つめなおすきっかけにもなりました。
ぜひ記事と照らし合わせながらじっくり曲を聴いてみてください!

Holy Sweet Home リリース情報

Holy Sweet Home

作詞:shikaro・熊谷和海
作曲:奏音
編曲:岸田勇気

▼各種音楽配信サービスはこちら
https://lnk.to/LZC-3563PR

Holy Sweet Home Music Video

■音感れもねゐど Profile

音感れもねゐど

一聴、違和感。二聴、快感。
音大時代の同級生と、その幼馴染によって結成された音楽ユニット。
クラシックピアノを軸に、ジャズ、フュージョン、ロックといった多彩なジャンルを大胆に融合させた独自のサウンドを展開する。一聴するとトリッキーでありながら、聴き込むほどに耳へと馴染み、心地よく溶けていく音楽性が特徴。

写真左から、
Piano:なのはな
Vocal:shikaro
Compose,Conduct:奏音

■最新リリース情報

Silent Gallery

作詞:shikaro・熊谷和海
作曲:奏音
編曲:奏音

Silent Gallery スタジオライブMV

■HP・SNS

・音感れもねゐど Lit.link:https://lit.link/onkan_lemonade
・音感れもねゐど X:https://x.com/onkan_lemonade

・奏音 X:https://x.com/knt_perc_

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